水産試験場
アカアマダイの種苗生産 ―増養殖部―
 

はじめに

 本県のアカアマダイ漁獲量は、平成元年をピークに減少し、現在、資源レベルは中位、資源動向は横ばいと評価され、資源回復の取り組みが進められています。資源回復手段として、人工種苗放流の要望がありましたが、親魚用の活魚の確保の困難さや、飼育するにあたって飼育水の冷却が不可欠との認識から種苗生産に着手することができませんでした。しかし、本県においても種苗生産の可能性を検討するべく、平成24年度から予備試験を行ったところ、水温が低下する産卵末期の10月に親魚確保及び採卵することで、自然水温での仔魚の飼育が可能と分かりました。平成25年度に76尾の稚魚の生産に成功したことを皮切りに、平成26年度から放流稚魚の量産化を目指して受精卵の大量確保と、これまでの課題を改善するための種苗生産技術開発試験に着手しました。一方、(一財)宮崎県水産振興協会においては、水産試験場で確保した受精卵を用いて3年連続で稚魚の生産、放流に成功しています。また、平成29年2月には放流した標識魚の採捕が初めて報告され、現在まで7尾の採捕が確認されています。

産卵期とサイズ別雌雄比


図1 雌のGSI推移(H24〜26)と沿岸水温
 種苗生産を行うため、本県沿岸に生息するアカアマダイの産卵期を把握しました。雌の体重に対する卵巣重量の割合(GSI)の月別推移を調べたところ、産卵期は9月を中心に6月下旬から11月上旬の長期間に及ぶものと推察されました(図1)。アカアマダイを生産する他県の機関(現在は山口県のみ)では9月に採卵が開始されますが、本県海域の9月の水温では仔魚の飼育が困難と思われ、やはり10月中下旬の短期間が勝負になると考えています。
 また、アカアマダイは外見で雌雄の判断がつきません。雄の方が成長が早く、大型個体では雄の割合が高いことが知られていますが、実際に本県沿岸の個体をサイズ別に集計したところ、500g以下では雌の割合が高く、それ以上では雄の割合が高くなり、800g以上になると全て雄であることが分かりました。

親魚確保


図2 ホルモン打注
 種苗生産される多くの魚種は人工飼育下で親魚養成が行われますが、アカアマダイは生息水温が低いため、夏場の沿岸水温では卵の成熟が困難とされ、漁獲直後の活きた雌にできるだけ早くホルモン注射を行い、活かした状態で卵の成熟を促すことが採卵のポイントとなります。一方、雄は鮮魚でも十分精子を確保することができます。
 アカアマダイは主に底延縄漁で漁獲されますが、本県の漁場は水深が100mより深いため水圧や水温の差で生きたままでの確保は難しく、漁業者の技術がポイントとなります。また、活魚で持ち帰るには手間も時間もかかり漁業者の協力が不可欠です。活魚収集には、これまで県南の3漁協から合計10隻の協力をいただいております。活魚は、仔魚の成長のばらつきを考慮し集中した受精を行うため3日間で収集しますが、例年10月は台風の影響で操業できないこともありハラハラさせられます。毎年、この3日間は祈る様な気持ちでそれぞれの港を回り、活魚を収集してきました。  各漁船から受け取った活魚は、その背筋部に直ちに生殖腺刺激ホルモン(HCG)を注射し(図2)、活魚カゴ内に1尾ずつ分けて収容し、水槽の水温は生息水温に合わせるように海水氷で20℃に調整します。水産試験場へ到着後は、活魚カゴのまま恒温室内の水槽に収容し水温20℃で管理します。一方、雄については鮮度の良い魚体であれば採精できることから、雌の確保と同時に800g以上の大型の個体を確保し、当日のうちに精巣を摘出して人工精しょう液にて希釈保存しておきます(4℃で5日間程度保存可能)。  このような方法で、平成26〜28年度には3日間で31〜41尾の活魚を確保することができました(表1)。
FISHERIES EXPERIMENT